収穫が終わり、ブドウ畑には静寂が広がります。この時季ならではの農閑期に入り、ワイナリーでは次なる一年の準備が始まります。本稿では、11月末から2月初めにかけて行われるブドウ栽培の重要な作業、粗剪定と土壌整備に焦点を当てます。

 

粗剪定:新たなサイクルの始まり

 

収穫が終わり、葉が散り落ちた品種から「粗剪定(あらせんてい)」が始まります。この作業は、年明けから始まる「本剪定(ほんせんてい)」に向けた準備段階であり、作業効率向上につながります。枝を切り落とした後細かく刻んだものは、1年かけて土に還されます。しかし、生木は土に還りにくい性質があります。

ハンマーナイフモアという機械に剪定枝の上を走行させ、10㎝程の大きさに枝を粉砕します。春になり雑草が伸び始めてから、乗用草刈機で草を刈ることでさらに枝は細かくなっていき、1年かけて土に戻ります。

 

 

海外では、切り落とされた枝を燃やして灰にし、肥料として再活用することもあります。これは持続可能な農業の一環であり、資源の循環を促進します。本剪定は、来年の春以降のブドウ樹の成長に必要な枝を選定し、それ以外の枝を切り落とす作業です。粗剪定はその前段階で、次なる成長サイクルへのスムーズな移行をサポートします。

 

土壌を整える:農地の栄養補給

 

ブドウの生育にとって土壌の状態は極めて重要です。成分の不足や偏りがある土壌ではブドウ樹が十分に栄養を吸収できず、ブドウの品質が低下してしまいます。

そのため、ワイナリーでは定期的に土壌分析を行い、足りない栄養素を補うための手入れとして、堆肥を撒きます。中伊豆ワイナリーでは、敷地内にある馬の牧場(ワイナリーヒルズランチ)から出る馬糞を元に堆肥を作り、使用しています。

土壌には腐植(ふしょく)と呼ばれる物質があります。腐植とは、動植物が微生物によって分解されてできる土壌中の有機物を指します。

土壌の粘着性を減少させて微粒子にし、微粒子同士を結び付けて団粒構造を形成する働きが腐植にはあります。この団粒構造は土壌の通気性と排水性を向上させることから、植物の根が十分な酸素にアクセスし、水分を適切に排水できるようになる働きがあります。

また、腐植には植物の成長に必要な栄養素が含まれています。同時に腐植中の有機物が微生物によって分解された結果、窒素などの栄養素が土壌に放出されます。しかし、ブドウなどの果樹は成長において窒素を大量に必要とするため、腐植を消費することによる栄養補給だけでは不十分です。これを補うために、有機物を含む堆肥などを追加して、栄養分を適切に供給する必要があるのです。

 

この時期に堆肥をまくことで、土壌が栄養分で満たされ、ブドウの新たな成長サイクルを支えることができます。これは、ワイナリーが美味しいワインを醸造するために欠かせない工程であり、農地の健康を維持する重要なプロセスです。

 

まとめ

収穫が終わった11月末から2月初めにかけての農閑期は、ブドウ畑の未来を築くための重要な時期です。ブドウ樹は次のシーズンに向けて休眠していますが、粗剪定と土壌整備を行うことは次の成長サイクルに向けて土台を作ることにつながる作業です。

栽培家は寒い冬期の間もこれらの作業を丹精込めて営み、それが来年以降の美味しいワインの誕生につながります。ワイナリーのスタッフは、季節ごとに様々な手入れを行いながら、大地やブドウ樹と対話し、高品質なブドウを生み出しています。