ワインを造る工程の中で最も大切で、ぶどう果汁がワインになる大きな要素となるのが発酵です。
ぶどうをタンクに入れて酵母を加えると、酵母の働きによりぶどうに含まれている糖分が分解され、炭酸ガスとアルコールに変化することでワインが生まれます。

発酵のプロセスの中でワインの香りや味わいが形作られ、どのようなワインになるのかが決まっていきます。
では、ワインが発酵している間、タンクの中ではどのようなことがおきるのでしょうか。


ワインの味わいと香りを左右する発酵温度

タンクに入れたぶどうの糖分を元に酵母が活動し、アルコールや炭酸ガスを生み出す発酵が進んでいる間、タンクの中は温度が上がり、ワインの種類によっても違いますが、赤ワインの場合は20~30度程度になります。
これは、ぶどうに含まれる糖分がアルコールに変わる過程で熱が発生するためです。

酵母は発酵の初めにもろみと呼ばれる発酵途中の果汁の中で増殖していき、その後一定の数で安定します。一番多い時には1ml中に1億個以上もの酵母が存在する状態になります。

つまりは水の入ったプールの中で人がひしめき合いながら楽しんでいるのと同じような状態になります。多くの酵母が活動することで熱が生まれ、それによりもろみの温度も上がります。

酵母の働きでワインは発酵しますが、酵母は生き物なので、タンクの温度が下がりすぎても、上がりすぎても活動が弱まったり、止まってしまい、アルコール度数が予想していた程上がらなくなってしまいます。

また、温度が上がると発酵のスピードが速くなり、発酵の段階で生まれる香気成分が損なわれてしまうため、温度が上がりすぎないように管理することがとても大切になります。

特に白ワインの場合は10~20度程度の低温で発酵させることが多く、その分糖分がアルコールに変わるスピードが遅くなります。
時間を掛けてゆっくりと発酵させることで、繊細で豊かな香りを持つ白ワインが生まれるのです。

一方、赤ワインの場合は白ワインと違い20~30度程度で発酵させますが、これは黒ぶどうの果皮に含まれる色素や、渋みの元であるタンニンを抽出するために、少し高めの温度が必要になるためです。

中伊豆ワイナリーでは温度調節のできるタンクを使用し、発酵の前段階から発酵が終わるまで、そのぶどうやワインに適した温度で発酵を進められるようになっています。


ワインの香りを決定づける酵母

ぶどうをワインにする時に必要になるのが酵母です。

ワインを発酵させる際に使用する酵母は、大きく分けて自然酵母と培養酵母の2つがあります。この2種類の酵母の違いについてご紹介します。


自然酵母

自然界に存在する酵母のことで、ぶどうの皮などに元々付着しているものや、ワイナリーの環境にいるもののことを指します。

ぶどうを収穫して潰し、そのまま放置しておくだけでワインが生まれるのは、自然酵母の働きがあるためです。今から3000年以上昔にワインが生まれた頃から、ワイン造りを支えてきたのが自然酵母ともいえます。

自然にいるものということもあり、その環境によって存在する酵母の種類も違うことや、発酵の初期の段階では他の菌類が存在することで、様々な香り成分や味わい成分が生成されることにより複雑性が生まれ、出来上がるワインも毎回違ったものになります。

ただし、自然についてくるものにはどのような種類の酵母がついてくるかがわからないため、発酵をコントロールすることが難しいことや、ワインにとって好ましくない香りが出てしまうことも多く、扱いが難しいというデメリットがあります。


培養酵母

培養酵母とは、特定の酵母株を研究室で培養して人為的に作られたものをいいます。

長年高品質なワインを生産するワイナリーから分離されたものや、自然界から分離された自然酵母のうち、ワインを発酵するのに好ましい酵母株を選抜して培養しており、白ワイン用や赤ワイン用、ぶどう品種ごとに適したものなど、さまざまな酵母が販売されています。

培養酵母にはかなりの数の種類があり、それらをどのように組み合わせて使うかで、ワインの香りや味わいが変わってきます。

これにより造り手の好みやワイナリーごと、ワインごとの特徴がよりはっきりとしたワインを、毎年同じように造り続けることができるようになりました。

自然酵母と違い、どのような株の酵母を使っているかわかるため、コントロールがしやすいのが良い点です。

しかし、初めから特定の種類の酵母だけでの発酵になるため、香りや味わいが単調になりやすく、ワインとして重要なヴィンテージによるぶどうの品質の違いやテロワールによるぶどう産地の違いによる特徴などを表現するという点ではデメリットになってしまうこともあります。

中伊豆ワイナリーではたくさんの培養酵母の中から、その年のぶどうの状態に合わせて酵母を選択し、ワインを造っています。

使用する酵母の種類はワインによって1種類のこともあれば、複数の酵母を使用することもありますが、どのような香りと味わいのものにするのが良いかを熟考し、選択しています。


マロラクティック発酵とは

ぶどうに含まれる糖分がアルコールと炭酸ガスに変わる発酵のことを「アルコール発酵」や「主発酵」といいますが、ワインにはもう一つの発酵「後発酵」や「乳酸発酵」と呼ばれる「マロラクティック発酵」があります。

マロラクティック発酵は、ワインに含まれているリンゴ酸を、乳酸菌の働きで乳酸に変えるもので、赤ワインと一部の白ワインに用いられます。

ワインに含まれるリンゴ酸はフレッシュな味わいを呈し、白ワインやロゼワインではすっきりと飲みやすいワインにつながるものですが、赤ワインの渋みには合わないため、ワインの主発酵が終わった後で、マロラクティック発酵を行います。

マロラクティック発酵をすると、口当たりがまろやかになり、ヨーグルトやチーズのような乳酸発酵により作られる食品に似た香りや、バターのような風味をもたらします。

白ワインの場合は強い酸味が和らぎ、もっちりとしたボディのあるワインへと変化します。

マロラクティック発酵のメカニズムは20世紀半ば頃まで謎の多い発酵でしたが、今ではそのメカニズムの多くが解明され、現在はある程度コントロールができるようになってきています。

そして、酵母菌と同様に、マロラクティック発酵に使用するための培養された乳酸菌が販売されていて、付与したい香りや味わいの特徴、逆に抑えたい特徴などを考慮して使用する乳酸菌を決めていきます。

ワインにおける発酵は奥深いものですが、発酵温度をコントロールすることで甘みを残して発酵を止めたり、香り豊かな白ワインを造るために低温でゆっくりと発酵させたりと、醸造家の技量が測られる場面の多いプロセスです。

どのような酵母や乳酸菌を選択し、どのくらいの温度でどのように発酵させるかで、出来上がるワインも変わってくるため、醸造家は常に収穫されたぶどうと向き合いながら、どうすればぶどうの個性が引き出せるのか考え、ワインの造り方を決定しています。