誘引(ゆういん)を行う時期の葡萄畑は、1 月~2 月に終えた本剪定により枝が整えられ、1 本の樹から 2 本の枝(結果母枝 / けっかぼし)だけを残した状態です。見た目には閑散としていて、とても静かにひっそりと佇んでいるように見えます。

しかし、土の中では休眠期から目覚め始めた根が、水を吸い上げ、すぐに折れてしまうほど乾燥していた樹に弾力を与え始めています。

本記事では、本剪定で選ばれた 2 本の枝を水平に寝かせる「誘引(ゆういん)」についてご紹介します。この時、栽培家は何を考えどこを重要視しているのでしょうか。1 本 1 本の樹との対話がまた始まります。


本選定の後に行う作業「誘引」とは

剪定(前記事)で選ばれた2本の枝(結果母枝)を水平に倒し、針金に固定する作業のことを誘引(ゆういん)といいます。葡萄の成長に係わる無駄な競争を抑えるため、バランスを重視して、樹形を整え、一定の収量を確保するための重要な作業です。

水を吸い上げ始めているとはいえ、枝を水平に倒すのは「折れる」というリスクが高い作業です。品種によって枝のしなやかさは違うため、折れやすい樹の誘引は、雨の後や湿度のある日、もしくは小雨の日に行うなど気を配ります。


誘引を行うタイミング

剪定は 2 月中には終了しますが、この段階ですぐ誘引すると、枝が乾燥しているためポッキリと折れてしまいます。そのため、3 月に入り気温が上昇して樹が地下から水を吸い上げ、枝が弾力を帯びてから行います。

万が一折れてしまうと、その枝からの今年の葡萄の収穫はできなくなってしまい、その後の樹形にも影響が出てしまうため、作業は慎重にゆっくり行われます。


誘引する際に栽培家が考えていること

誘引で一番大事なことは「選ばれた 2 本の枝(結果母枝)をどの長さに切るか」。枝を寝かせたとき、その樹その枝の持っている力や太さを見て適切な長さに切り合わせることで、樹勢や良い実を成らせるためのコントロールをしていきます。

「太い枝は力を持っていて、細い枝は力が弱いから、それぞれの枝に養分がしっかり行き渡る最適のバランスを見出して、調整してあげることが一番大切なんだ。」と栽培家は言います。

そうすることで、枝の成長やその後の芽の吹き具合のバランスが良く取れ、葡萄の育成環境が整うことに繋がります。これらのことは、既に本剪定の際にも考えられていますが、誘引の際にもあらためて、もう一度樹と向き合います。

本剪定の時にはこの枝をどうしたかったのかを読み取り、誘引ではさらに成長したときの芽吹き具合などのバランスを考えていく。“本剪定”から“誘引”への一連の作業は、樹のバランスを整え、良い芽吹き、良い実を成らすという目的のために行われています。


今回は、「誘引」についてご紹介いたしました。10 ヘクタールもの広大な畑を、それぞれの品種の 1 本 1 本の樹と向き合いながら行う作業は手間も時間も要します。スタッフ総出で行っても約 2 ヵ月かかる作業です。

確かな経験と知識をもって、その後の葡萄の成長を想像できるかどうかで、今年の葡萄の出来にも関係する非常に重要な作業です。

誘引が終わった畑は、とても整然とした様子で、まるで葡萄の樹が「準備万端ですよ」と言わんばかりに胸を張っているように見えます。

ここからいよいよ成長期に入ります。樹の節の芽が膨らみ(萌芽 / ほうが)、そこから葉が出てきます。中には可愛い葡萄の赤ちゃん(花穂 / かほ)も見えてくる時期です。次回は、萌芽・展葉・開花と急成長する葡萄の様子と、「芽かき」作業についてご紹介します。


おまけ

この写真は「葡萄のなみだ」(水揚げ)と言われる現象を捉えたものです。樹にしみ渡る水分が枝の先から、まるで涙のようにポタポタと滴り落ちてきます。

これは夕暮れ時、栽培家の方が作業中に撮影されたものです。葡萄の涙が寒さで凍りつき、“つらら”のようになっています。沈みかけの夕日に照らされて、とても神秘的ですね。冬の間、静かに眠っていた葡萄の樹が動き始めた証拠です。