いよいよぶどうの収穫の時期となりました。
畑ではヴェレゾン期(ぶどうが色づきはじめる頃)を迎えた白ぶどうが大きく立派に育ち、実の色もうっすらと黄色みを帯びてきて、まさに今がぶどうの絶頂のように見えます。ですが見た目や食味だけで収穫のタイミングを決める訳ではありません。

ワイン用ぶどうは糖度と酸度のバランスが最も重要視されます。このぶどうをどんな味わいでどんな風味のワインに仕立てるのか。その目的によって糖度と酸度の数値を計りベストなタイミングを狙って収穫していくのです。そこには「果汁分析」という科学的分析が必須となります。

本記事では、その果汁分析の目的とやり方、そしてぶどう栽培の集大成となる「収穫」について詳しくご紹介いたします。


果汁分析(サンプリング)

果汁分析とは、ぶどうの品種ごとに糖度と酸度、そしてpH値(酸性・中性・アルカリ性度)などを計測することです。品種ごとかつ畑ごとに分析し、収穫のタイミングを見極めるまで毎週行っていきます。

将来のワインの味の方向性を決める重要な数値なので、ただやみくもに実を採取するわけにはいきません。畑ごとの平均値を正確に計測するべく、ぶどうの実のサンプリングにも細かく定めたルールをもって行っていきます。


実のサンプリングの仕方

・日当たりを考えて1枚の畑の中でも東西南北を対角線上でとらえ4本の樹を選んで採取。

・樹を決めたら4箇所の内、2か所は日に当たる面から、残りの2か所は裏面から採取。

・ひと房の中でも熟し方に差があるため、一番下・裏側の真ん中・一番上の3か所から採取 ・樹の主幹に近い房から採ったら、次は主幹から遠い房を選んで採る。など

このように、畑ごとの平均値を正確に測れるよう一定のルールを設定してぶどうの粒をサンプリングし分析を行います。


果汁分析(分析)

サンプリングしたぶどうの実を搾り機で果汁にしていきます。

この分析では単純にphを計るだけでなく、数字から読み取れる別の要素もあります。

例えば糖度がまだ低いのにphの数字が高くなったり(酸度も低い状態)、酸度が高いにもかかわらずphの数値が上がってくるなど、通常の反応とは違う結果が出た場合、何かの影響が考えられたり、食味だけでは分かりづらい病気なども発見できるのです。分析の結果によっては収穫を急がなければならないなどの指標になります。

畑ごとの糖度と酸度の値を元に、昨年までの過去5年間の分析記録と見比べながら慎重に計画的に収穫日を決定していきます。


いよいよ始まる収穫

さあ、いよいよ収穫です!今年は8/19からスタート。品種はシャルドネから。

収穫作業はすべて手摘みで行います。十数名のスタッフが一列に横に並び、同じ畑を一緒に収穫していきます。房の付け根の梗(こう)をハサミで切り選果も同時に行います。選果とは文字通り実を選ぶ作業。房の中には鳥につつかれ傷ついた実・腐食している実・未成熟の実があるので、そういった実は全て取り除き、健康できれいな実だけの状態にして収穫箱に入れていきます。

選果はとても手間がかかりますが、その後のワインの品質や味わいに大きく影響する重要な作業です。栽培家は、ここまで立派に育ってくれたぶどうに感謝しつつ、最高の状態で醸造チームへ引き渡せるよう、ひと粒ひと粒入念にチェックし選果を行っています。

「こんなきれいなシャルドネ見たことない…」。

収穫の合間に聞いた栽培家の言葉に、ぶどうへの愛情と今年の出来に手ごたえを感じているのが伝わってきました。


真夜中のぶどう収穫「ナイトハーヴェスト」

ナイトハーヴェストとは、言葉の通り、日の出前にぶどうを収穫する収穫方法です。
あたり一面真っ暗な中、ヘッドライト1個の灯りを頼りに収穫するその目的と成果は何なのでしょうか?

その一つは高い糖度にあります。日中は気温の上昇と共にぶどうは光合成と呼吸をしエネルギーを使っていますが、深夜になり気温が下がると光合成は止まり、呼吸も穏やかになり消耗が減ることで糖度が上がる傾向にあるのです。蓄えられた糖度が高い状態の夜明け前に収穫することで、最高の状態のぶどうの収穫を目指します。

また、香り成分が華やかなソーヴィニヨン・ブランなどに含まれる特徴的なカンキツ系の香り、つげの香りとも言われる「チオール」成分は、1日の間でもその成分量に2倍の差が出ると言われています。 香り成分として非常に重要な成分であるチオールも糖度と同様に夜間に増加します。いかに多い状態で収穫できるかでワイン造りにも大きく影響してくるため、真夜中であっても含有量の多いタイミングで収穫します。

このように、品種の特徴を最大限に生かすべく、真っ暗闇の中、静寂のみが存在する深夜2時から朝方6時ころまで収穫を行い、最高の状態で醸造スタッフへ受け渡されていくのです。収穫したぶどうはその朝すぐ仕込み作業に入ります。


より品質の高いワインを目指した選別

選果については前述で触れていますが、品種によってはより徹底した選別を行うものもあります。気候条件や栽培地の違いなどによって、ぶどうの色づきには差が出るのですが、中伊豆ではメルロー、カベルネ・ソーヴィニョン、シラーなどの赤ワイン品種のぶどうは、より色味、味わいの濃いワイン造りのため、2段階の選別をしています。

1段階は畑で樹の選別が行われ、色の濃い房をつけている樹、少し色味が薄い房を持つ樹に分けられます。これは熟練の栽培家によって判断され、樹にマークしていきます。

次は房の選抜。畑から収穫した濃い房を持つ樹と判断された樹のぶどうも、厳しい視点でさらに選抜が行われます。色の濃い房・少し色味は薄いが十分に熟した房。

この作業は、色の判断を正確にするため、天気の加減で明るさの変わる畑ではなく、一定の光量で判断できる室内で徹底した管理のもとで行われます。

一見同じぶどうに見えますが(右下写真)、よく見ると房の濃さに違いがあります。
この熟し方の違いもその後のワイン造りに活かされ、どちらのぶどうも美味しいワインへと育っていくのです。

今年のぶどうの収穫は、8月19日白ワイン用ぶどうからスタートしました。9月中旬には白ぶどうの収穫を終え、その後は赤ワイン用ぶどうの収穫へ。
そして10月15日、赤ワイン用ぶどうも無事に収穫を終えました。

収穫期、栽培家は「ありがとう」という気持ちが一番強いと言っていましたが、折り返し地点を過ぎたころからは「少しさみしい」とつぶやいていました。 毎日向き合っていたぶどうが畑からなくなってしまったのですから、そう感じるのは自然なことです。けれどそれと共に、今年もいいぶどうを育てることができた安堵感と達成感に満たされているようにも見えました。

これは、農場スタッフ、醸造スタッフ、そして畑の作業をずっとサポートしてくださっている事業所の方々。

真夏に始まった収穫時はあんなに暑かったのに、今では肌寒さも感じるようになりました。皆さんとてもいい笑顔をされていて、達成感に満ちているように見えます。


来年に向けて…

すべての収穫が終わり畑ではぶどうの葉の紅葉が始まりました。

実がなくなっても、ぶどうの葉は日を浴び光合成をし続けエネルギーを蓄えていきます。これからやってくる厳しい寒さを乗り越え、そして来年の芽吹きを迎えるためのエネルギーです。

葉がその役目を終え自然に落葉するのを待つ間は、鳥よけネットの片づけや苗木をサポートしていたビニール外しなど、畑の整備を進めていきます。

一方では別の動きも始まっています。新しい畑づくりです!
収量を増やすため、また新たな品種の試験栽培など、畑の開墾は毎年少しずつ進んでいますが、今年も新たな畑づくりが始まりました。

栽培家は早くも来年以降のぶどう栽培を考え、計画し、行動を始めています。

次回は、畑づくりの様子や苗木の植え付けなど、畑やぶどう栽培のスタートとなる、これまであまり紹介していなかった作業についてご紹介いたします。