今回は、収穫前の4つの作業を紹介いたします。栽培家の献身的なサポートで成長を見守ってきたぶどうたちは、健やかに順調に大きく育っています。

ですが、収穫まであと約1か月半。ぶどうにはさまざまな危険が待っているのです。
いったいどんな危険があり、どんなサポートが必要なのか。 栽培家の想いと合わせて詳しくお届けします。



「摘房(てきぼう)」と栽培家の葛藤

摘房とは、1本の枝に実っている房の数を減らす作業の事です。なぜ収量を減らすようなことをするのか?と疑問に思いますが、そこには「いいワインを造る」という最終目的の為に重要な要素と「今後も健全なぶどうを収穫できるようにする」という将来を見据えた上で必要な理由があるのです。


「いいワインを造る」ための摘房

例えば細い枝に2つの房があるとします。房は順調に育っていますが、この枝は細い上に葉も少ない状態。このまま2房ならせたままにしておくと未熟果や着色不良など、実の成熟に影響がでてしまい、良いぶどうの成長が見込めないのです。

その場合、ひと房取って樹の負担を減らし、もうひと房を良いぶどうに育てる方がワインの味わいや品質を上げることにつながります。この見極めが将来のワインの出来を左右する重要な工程になるのです。


「今後も健全なぶどうを収穫できるようにする」ための摘房

実をつけるのは樹にとってとても負担の大きいことです。太くて葉も多い強い枝や細くて力のない枝など成長はさまざま。今年頑張れても、疲れて来年の枝や樹が弱ったりしないように、栽培家はその枝、その樹全体に対して適した房の数を見極め調整し、ぶどうの樹をサポートするためにも摘房という工程を大事にしています。


栽培家の葛藤

販売を担当する部署からは、自園ぶどうを使ったワインの販売数量を増やしたいという声が出ます。ひと房でも多くぶどうを収穫し1本でも多くのワインを造ってほしい……。この声は栽培家まで届くこともあります。考え方や方針の変更で樹に負担をかけたくないし、ぶどうの質も守りたい。良いぶどう造りを目指す栽培家にとってぶどうの樹は、それだけ大切なものなのです。

そのため、そういった方針の変更に沿えるよう栽培家は樹に無理はさせず数年をかけて調整し、いかにぶどうにとって良いサポートができるか、他によりより方法がないか模索しながら、収量と樹のバランスをとって育てています。

バランスをとる難しさ、コントロールする難しさ、何よりぶどうの品質を守る難しさを 、知っているからこその葛藤があるのです。



ルールで作業統一を徹底 実を守りつつ健全に育てるために必要な「除葉(じょよう)」

除葉とは、房まわりの葉をとり除く作業の事です。

葉が多すぎると適度な陽射しが実に当たらず、風通しも悪くなってしまいます。

ですが取り過ぎると、今度は日が当たり過ぎて実が焼けてしまう……調整が難しい作業です。作業する人によって取り方がバラバラではぶどうの品質にも影響が出てしまうため、品種ごとに徹底したルールをもって作業にあたっています。

例えば、強い陽射しをカバーする葉は残して、房の下にある葉をとる。陽を当てるために房裏の葉をとるなど、皆が同じ条件で同じ作業が出来るようにルールがあるのです。



ヴェレゾン期(成熟期)と共に訪れるさまざまな敵への備え「鳥よけネット」

ヴェレゾン期に入ると、ぶどうの実が色づき糖度が上がって甘くなってきます。すると、即座に動きだすのが小動物や鳥たち。ぶどうの実を狙ってあちらこちらから畑に侵入してきます。大事に育てたぶどうを収穫直前に傷つけられる程悔しいことはありません。そうなる前に、ぶどうの周りにネットを張り、実を守るのです。

雨除けのグレープガードの両サイドからネットをかけ、包み込むように止めていきます。上からも横からも下からも浸入を防ぐべく、徹底ガードで備えます。

それでもちょっとした隙間から入られることもあり、ネットの中に鳥が飛びまわっていることもあるのだそうです。そこまでしてぶどうを食べにくるということは、それだけ美味しいということなのでしょう。

畑全体を電気柵で囲い大きな動物に備え、さらにぶどう周りをネットで守る。収穫のその日を迎えるまで、栽培家は毎日の見回りに気を抜けません。



収穫直前の最後の作業「腐敗果整理」

ひと通りの作業を終え、あとは収穫のタイミングを待つ状態の時に行うのが腐敗果整理です。

漢字の通りぶどうの房の中で腐敗している実や、大きくなれなかった未熟果などを鳥よけネットの外側からピンセットでひと粒ひと粒取り除いていきます。 病果もそうですが、鳥につつかれた実は果汁が出て腐りやすくなり、また雨に濡れることでカビも生えてきます。

そのままにしておくと隣り合う実まで腐らせてしまうため、時間の許す限りひたすら畑を回り、ひと粒ひと粒取り除いていくのです。

収穫の瞬間のギリギリまでひと粒でも多くの実を守ろうとする姿勢には、驚きと尊敬と共にぶどうへの深い愛情を感じずにはいられません。

さあ、いよいよ収穫が始まります!

予定では8月20日前後からのスタート。腐敗果整理から約1週間後に迫っています。

次回は、収穫するにあたりどの品種をどのタイミングで収穫するのか。また品種ごとの収穫方法の違いなど細かくご紹介いたします。