ワインは熟成を終えると、樽やタンクから出して瓶詰めされ、みなさまのお手元に届くのですが、その前に、ワインの中の不純物などを取り除き、ワインを安定化させる「ワイン処理」を行ってから瓶に詰めます。

ワイン処理には3つあり、それぞれ取り除ける不純物の種類や目的が違います。今回はこの3つのワイン処理についてご紹介します。


冷却による結晶化――酒石とカリウムの除去

時折、ワインの瓶底にキラキラと光る石のようなものがたまっていることがあります。

これは酒石と呼ばれるもので、ワインに含まれている酒石酸と、カリウムやカルシウムなどのミネラルが結合してできた結晶です。

ワインが低温の状態だと酒石が析出しやすく、冬場に低温でワインを置いたりすると酒石が出るようになります。

「伊豆ロゼ 2024」の紹介記事でも触れていますが、酒石は「ワインのダイヤモンド」とも呼ばれ、白やロゼなどで瓶の底に出ている酒石を、自然で上質であることの証として喜ぶ方もいるほどです。

万が一酒石を飲んでしまったりしても体に害はありませんが、舌触りが良いものではないことと、酒石に色素成分が結合しやすいため、赤ワインの場合は特に、ワインの色に影響を与えてしまうことから、瓶詰め前に取り除く処理を行います。


ワインの酒石酸やミネラルを取り除く方法にはいくつかありますが、中伊豆ワイナリーでは、ワインの温度を下げて冷却することで、析出させた酒石を取り除く方法を取っています。

ワインを4度〜-1度程度に冷却し、1~2週間ほど置いておくと、自然に酒石が出てくるため、それを濾過して取り除きます。

他にはイオン交換樹脂や酒石の粉末を加える方法があります。そうした方法と違い、とてもシンプルな方法ですが、酒石を取り除くことで瓶詰め後に酒石が出にくくなります。


ベントナイトによる処理――不安定なタンパク質の除去

ワインには豊富なミネラルの他に、タンパク質が含まれています。タンパク質というと体に良いもののようなイメージがあるかも知れませんが、ワインに含まれている場合、少し厄介です。

ワインにタンパク質が含まれる理由はワインによっても違います。

カビなどの菌に対抗するために生成されたり、酵母が澱となって沈んだものが、長い期間熟成することで分解されて生まれる場合があります。

ワインの中に含まれるタンパク質が厄介なものとされる理由には、ワインが濁ってしまうことと、アレルギーの原因物質となることが挙げられます。


ワインを濁らせ、アレルギー物質となるタンパク質を取り除くのに有効なのは、ベントナイトと呼ばれる粘土鉱物を利用する方法です。

瓶詰めする前のワインにベントナイトを加え、ワインの中に含まれるタンパク質を吸着させ、沈殿した澱を濾過して取り除きます。

ベントナイトを使用してタンパク質を吸着し、取り除かれることで、より安全で安心なワインとしてみなさまの元にお届けすることができるのです。

ただし、ベントナイトは味わい成分や色素成分などにも作用するため、使用する量は必要最低限に抑える必要があります。

実際に行う前には加熱試験などを行い、どれだけ使用するかを見極める必要があります。


瓶詰め前の仕上げ――珪藻土や濾紙による濾過

最後にご紹介するのは、ワインを瓶詰めする際に不純物を取り除く濾過の工程です。濾過と一口に言ってもいくつかの方法がありますが、中伊豆ワイナリーでは珪藻土による濾過と濾紙による濾過を取り入れています。

写真は濾紙濾過を行っているところです。板状になった濾紙を装置内に複数枚設置して、装置を通すことで濾過される仕組みになっています。

珪藻土は、珪藻と呼ばれるプランクトンが化石となったもので、一般には土壁などに使われる素材の一つです。

一般家庭では、バスマットなどの小物に使われていることでご存じかも知れません。

珪藻土は非常に粒子が細かく、小麦粉のようなサラサラとしたものですが、これを層にして細かい粒子の中にワインを通すと、ワインの濁りの元となる成分が吸着され、ワインがクリアになります。


また、もうひとつの濾紙を使う方法では、シート状になっている濾紙を何枚も挟んだ濾過装置にワインを通すことで、余分な成分を漉し取り、きれいなワインを得ます。

ワインの濾過に使う濾紙は非常に目が細かいものから目の粗いものまでありますが、一般的にワイナリーで使われているものは、5~0.45ミクロンと、目に見えないほどの小さな穴が空いているもので、細かな不純物もきれいに濾過することができます。


ただし、濾過をかけるときに過度に目の細かいものを使用してしまうと、味わいや香りに影響を与えるワイン中の成分まで取り除かれてしまう場合があります。

そのため、ワインによって使用するフィルターの種類や目の細かさを決めるのは醸造家にとって非常に大切な仕事です。

ワインごとに適切な、濾紙の目の細かさを決めるのは、醸造家にとって熟練したテクニックが必要になる工程でもあります。

それまで育んできたワインの味わいや香りを損ねず、安全で安心なワインを造るためには、醸造家のこれまでの経験や技術に裏打ちされた決断が重要になるのです。

ワインを味わうときに、そんな作業があることをぜひ思い返しながら飲んでみてくださいね。