ワインの発酵が終わったら、今度は熟成を行います。
熟成とは、一定の期間ワインを静かに置いておくことをいいますが、その間にワインが酸素に触れ、緩やかに酸化することで、香りや味わいに変化がもたらされることを指します。
しかし、ワインの熟成についてはまだ化学で解明されていないことも多く、すべてが解明されていないからこそ、ワインを神秘的なものにしているといえるかも知れません。
この記事ではワインが酸化により熟成すると、どのように変化するかについてご紹介します。
ワインの円熟味を増し、なめらかにする「熟成」とは
先に述べたように、ワインが酸素に触れて緩やかに酸化することで、さまざまな変化がワインにもたらされますが、熟成することでワインは円熟味を増し、口当たりがなめらかになっていきます。
これはワインに含まれるさまざまな要素が変化することで生まれます。ここでは要素ごとに、熟成によってどのように変化していくのかを解説します。
色素(色合い)
ワインの色を決定づける色素は、ぶどうの果皮に主に含まれています。
黒ぶどうを潰すと赤紫色の果汁が出ますが、その赤紫色は果皮に含まれるもので、代表的なものに「アントシアニン」があります。
ワインにした場合、色素はワインの中に漂っている状態ですが、酸素と結びつくことで色素成分が塊を形成していき、同じ成分同士がくっついていく過程で、色素自体の色合いが変わっていきます。
例えば赤ワインであれば、最初はピンクや紫がかった赤をしていたものが濃い赤に変わり、さらに酸化が進むと茶褐色へと変化していきます。
白ワインであれば、レモンイエローが黄金色へと変わり、さらに琥珀色へと変化します。リンゴを切って置いておくと、茶色っぽく色が変わっていくのに似ているかも知れません。
アルコール
発酵が終わったワインにはアルコールが含まれていますが、ワインの香りが熟成によって変化するのには、アルコールが関与していると言われています。
アルコールが酸素に触れることで有機酸が生まれ、その有機酸がアルコールとさらに結びついて、結びつくごとに新たな芳香成分が生まれるのです。
ワインをグラスに入れてグラスを揺らし、酸素に触れさせるようにすると、どんどん香りが変わっていくと思いますが、それと同様に、ワインを静かに置いて熟成させることで、さまざまな酸化由来の香りがゆっくりと生まれて現れます。
このプロセスで大切になるのが、適度に添加される亜硫酸の働きです。亜硫酸は酸化が急激に進むことを防ぎ、適切なスピードでワインが熟成していくのを手伝ってくれます。
水分
ワインに含まれる要素の中で、最も量が多いのが水分です。
水そのものが熟成するわけではありませんが、ワインの口当たりをなめらかにする役割を、ワインに含まれる水分が果たしてくれます。
2つの水素と1つの酸素からなる水の分子が、ワインの中にたくさん漂っていると考えてみましょう。
水の分子は、ちょうど酸素原子の左右の下側に水素原子がひとつずつついている格好をしています。
そこにアルコールの分子も漂っています。
アルコールの分子は長細い棒のような形をしていて、その両方が漂ったままワインを静かに置いておくと、水分子についている2つの水素の間に、長細いアルコールの分子が入り込み、水分子とアルコールの分子が一体化していくといいます。
一体化することで、荒々しかったアルコールがなめらかに、口当たりが良くなっていくのです。
ちなみにこの、水とアルコールがくっついた状態のものは、ワインのボトルを振ったりすると、すぐにバラバラになってしまうのだそうです。
よくワインを輸送すると酒質が荒れてしまうといいますが、それは水分子とアルコール分子の結びつきから起こることだといえるでしょう。
タンニン
赤ワインの渋みの元となるタンニンも、熟成することで変化します。
タンニンの場合、色素の時と同じように、酸化することで同じ成分同士が結びつくのですが、結びつくときに必要のなくなった分子を落としていくのが特徴です。
こうしていらなくなって落ちた分子は、ワインの瓶の底にたまる「澱」となって現れます。
余分な分子が澱となって落ちることで、渋みやざらつきが落ち、心地よい口当たりへと変化するのです。
有機酸
最後に解説するのは、ワインに含まれるさまざまな有機酸への熟成の影響です。
ワインには、酒石酸やリンゴ酸、リン酸やコハク酸など、さまざまな有機酸が含まれています。
アルコールの熟成の項目で、アルコールが有機酸へと変わり、新たな香りが生まれると解説していますが、元々ワインに含まれている有機酸も、アルコールと結合して新たな香りを生み出す元となっていきます。
有機酸が豊富に含まれるワインほど複雑な香りを持つワインへと変貌する可能性が高く、ワインを醸造する課程でも有機酸の量はとても重要になります。
まだまだ謎の多い熟成のメカニズム
最初に述べたように、熟成のメカニズムはまだ化学で解明されていないことが多いのが現状です。
お酒にはさまざまな種類のものがありますが、多様な有機酸が豊富に含まれるワインだからこそ、その影響が大きく出るといえるかも知れません。
ワインが適切に熟成していくことで、結果的に良い変化がもたらされ、美味しいワインが生まれたり、ワインが飲み頃を迎えたりします。
ワインを飲むときにそのおいしさを最大限にできるよう、醸造家は日々研究し、たゆまぬ努力を続けています。
中伊豆ワイナリーではこれからも、細かな変化に注意を払いながら、さらに美味しいワインを造り、皆様の元へとお届けしていきます。