本記事では、萌芽から結実、そして肥大していくぶどうの実の様子と、その成長を陰で支える栽培家の絶えまぬ努力の様子をご紹介いたします。

4月上旬、栽培家は「ここから先は雨が降っても作業を止めることはない」と話していました。それだけ今年のぶどうの出来や収穫量に影響する大事な時期ということです。 では、実際に畑ではどのような成長がありサポートがされていくのか、順を追って詳しくご紹介します。

葡萄の成長 萌芽から肥大までの様子


およそ1週間から2週間の間隔で成長を追いましたが、ぶどうは驚くほどのスピードで、健やかにそして綺麗に成長していました。実際には、畑や品種、樹ごとによって成長速度はさまざまではありますが、どのぶどうも6月後半には大豆サイズ程まで大きくなってきます。

この後は、ぶどうの成長を陰で支える栽培家が、約2か月の間どのようなサポートをしてきたのか、そしてその一つ一つのサポートにどんな意味があるのかを詳しくご紹介します。

ぶどうの成長を支える栽培家の努力(芽かき・誘引・ビニール閉じ・副梢整理)
~待ってはくれない成長との追いかけっこ~

<芽かき>

ぶどうの葉が4~5枚まで増えた頃(4月下旬)から「芽かき」という作業が始まります。その主な目的は、①樹形を作る為の芽かき ②収穫を目的とした芽かき ③来年の枝の候補を選ぶ芽かきと3つあります。ぶどうの成長にあわせて少しずつ行い、最終的には1本の樹に対して3回行う大変な作業です。


1回目の芽かき… 副芽(双子の様な芽)をとることで芽の成長が揃うようにします。この後の誘引がしやすい(管理しやすい)上を向いた芽を残すというルールに沿って行います。比較的単純な作業なので全員で一気に全ての畑を回ります。

2回目の芽かき…これは最初の芽かきから数か月後、成長した房がぶつからない間隔を確保する為、一つの枝にたくさんある芽の数を減らし隙間をとる為に行います。

なるべく上を向いている芽を選びながら、握りこぶし1つ分程の間隔を空けるように隙間をとっていくのですが、花芽を持っていない枝もあるので、一つ一つの芽の状態を見極めながら行う慎重な作業です。芽を取ってしまったらそこに実は付かないので、皆さん責任と判断に迫られながら作業をしていきます。

3回目の芽かき…最後の仕上げの作業です。ここでは今年のぶどうのことよりも来年の枝をどうするかということを考えて最終的に残す芽を決めていきます。

この段階で!?と少々驚くかもしれませんが、来年使いたい・寝かしたい枝というのは、芽の向きや樹の形を見れば判断できるのだと栽培家は語ります。この作業は大変重要な為、熟練した栽培家だけで行っていきます。


中伊豆ワイナリーの畑では、4月の下旬から5月の上旬までの短い間に3回の芽かき作業を行いますが、そこまで手間をかけてやるのは栽培家のこだわりの証です。

「ぶどうの成長具合を見て、それぞれの成長段階に適したサポートをする。基本的なことをぶどうにとって適したタイミングでやるだけです。」と栽培家は言います。常にぶどうの目線に立ち最良の方法を探りながら作業を進める姿勢には本当に感銘をうけます。

そんな中で今年の収穫量に直結する芽を判断し、いくつかの芽に分散していた栄養をその芽に集中させ質の良いぶどうを目指す、尚且つ来年の枝の事まで見据える、芽かきという作業は「考える作業」とも言えるかもしれません。

<誘引(入れ込み>

伸びてきた枝をワイヤーの間に入れ込んでいく作業のことです。ぶどうは実だけでなく、枝もどんどん成長するので、ここで放置してしまうとその後の作業に大きく悪影響をもたらします。

後からワイヤーに入れようとしても長く伸びた枝は折れてしまうので1本1本のぶどうの成長を見ながら畑全体を回って、全ての枝がまっすぐにワイヤーの中に入り、お互いが交差したり好きな方向へ伸びたりして管理しにくくならない様整えていかなければならないのです。

そしてこの作業は、ぶどうがある程度成長する6月頃まで続きます。前に紹介した「芽かき」と誘引は、枝が伸びてきてからは同時に行っていく作業ですが、誘引は3回どころではなく成長具合にあわせて何度も何周もひたすら畑をまわる根気のいる作業です。これをやることで整然とした綺麗な畑に仕上がっていきます。


<ビニール閉じ>

伊豆は雨量の多い土地なので、ぶどうの実を雨から守るグレープガードは欠かせません。

作業は5月下旬から始まり、枝の成長具合を見ながら6月いっぱいまで約1か月かかります。同じ列の枝が一番低いワイヤーの高さを全て超えたらビニール閉じのスタートです。

結実した実は「一刻も早くビニールを閉じて守りたい」そんな栽培家の熱い想いで両側からビニールを寄せて真ん中で閉じるのですが、狭い間隔(10~20㎝)ごとに枝の間をクリップでとめる大変手間のかかる作業となります。

雨が入り込まない様、左右のビニールを合わせてからさらにねじ込んで隙間をなくし、絶対にビニール下に雨が流れない様徹底していきます。この周到さがこだわりなのです。

実際にはぶどうの成長にはズレがあり、まだワイヤーに届かいない枝もありますが、雨の時期が近づいてきたら先に閉じてしまうこともあるそうです。その場合、遅れた枝は出口がないのでグチャッと横に伸びてしまうため、そういった枝も後からチェックしてビニールを空けて上に出し、誘引します。

畑では、懸命にビニールを閉じてる人の後ろで、もう一度ビニールを開けて遅れた枝をビニールの上に出している人もいる。過保護すぎると思ってしまう程、栽培家たちの愛情を一身に受けたぶどうが育っています。


<副梢整理>

ぶどうのわき芽のことを副梢と言います。ビニールを閉じると、温度と湿度が上がるため副梢が伸びます。これを放っておくとビニール下の風通しが悪くなって病気のリスクが高くなってしまうため、副梢を切って房まわりの湿度を管理しなければなりません。

この作業はビニール下の低い位置のぶどうの様子を伺いながら行うのでとても体に負担のかかる姿勢での作業です。



副梢整理では、混みあった余分な葉も少し落とすのですが、ぶどうに日が当たり過ぎると焼けてしまう為、適度な位置と枚数に調整するという、経験が必要な作業となります。

その為、熟練した栽培家だけが行っています。1列で1日かかる難しい畑もあるようです。

こうしてぶどうたちは、栽培家からたくさんの愛情を注がれて、素直で元気にストレスなくのびのびと育っています。下の写真は鳥のさえずりが響く中、「涼しくなったよ、ありがとう。」とぶどうたちが言っているように思えます。


「さあ、あとは収穫を待つばかり…」とはいきません。収穫までは、まだまだ沢山のサポートをする必要があります。次回は、摘房・除葉・鳥よけ・腐敗化整理についてご紹介する予定です。

おまけ

副梢整理をしていると、時々こんな出会いがあるそうです。

今回見つけたのは樹の根元にひっそり作られた鳥の巣と4つの卵。

ビニール下の枝に巣を見つけることもあるそうです。親鳥は人の気配で逃げてしまい確認できませんでしたが、この時期は数か所に巣が作られ雛が生まれるんだとか! 緑いっぱいのぶどう畑の中で生まれるなんて素敵ですね。