さまざまな微生物が作用し、ぶどうの糖分がアルコールと炭酸ガスに代わり、ワインへと姿を変えていきますが、ワインの醸造環境にはワインに悪影響を与える微生物ももちろん存在します。
この記事ではワインに悪影響を与える微生物について、それがどんなものなのかについてご紹介します。
酢酸菌
酢酸菌は、アルコールを酸化して酢酸を生成する細菌のことをいいます。
お酢の製造に欠かせない微生物でもあり、自然界に広く存在している微生物です。
ワインが酢酸菌に冒されると、アルコールはどんどんお酢へと変化し、お酢のような鼻をつくような匂いがするようになります。
ワインの醸造の最中に、こうした刺激臭がしてきたら、酢酸菌の影響を疑わなければなりません。
酢酸菌の影響を受けたらどうなるか
酢酸菌は空気が大好きで、樽やタンクが十分に満たされずに空気がある場合に発生しやすく、また、ぶどうが傷んでいる場合もそこから菌が入り込みます。
また、温度が20度以上になると増殖しやすいのも特徴です。
酢酸菌に冒されたワインは、マニキュアの除光液のような匂いやお酢のような匂いがしたり、口に含むとしたがピリピリとし、酸味がすべてを打ち消してしまいます。
また、ひどくなるとワインが濁ったり、泡が立ったりすることもあります。
酢酸菌を繁殖させない方法は?
まず、樽やタンクに空気を入れないことです。そのためにはドライアイスなどを使って二酸化炭素で隙間を満たしたり、窒素や炭酸ガスを使って酸素を追い出すようにします。
また、ワインを醸造する段階で二酸化硫黄を少量加えることで、酢酸菌の活動を抑え込むことが出来ます。
そして、ワインを15度以下の低温で保つようにすれば、酢酸菌は動くことが出来なくなります。
もちろん、ぶどうの収穫は丁寧に行い、傷ついた実は取り除き、醸造所内はきれいに清掃することが大前提です。
野生乳酸菌
野生乳酸菌は、チーズやヨーグルトを作る乳酸菌の親戚にあたりますが、ワインにとっては厄介なトラブルメーカーです。
ワインの中にあるリンゴ酸や残った糖分を分解して乳酸を作るまではいいのですが、酢酸や嫌な匂いの元を作り出すのがその特徴です。
また、アレルギー物質を生み出すもとにもなることが近年の研究で知られ、ワインを飲んで頭痛や腹痛を起こす場合、野生乳酸菌が影響していることが多いといえます。
野生乳酸菌の影響を受けたらどうなるか
まず、野生乳酸菌が増える環境として、pH3.6以上、温度は15度以上、糖が少し残っていると野生乳酸菌は増殖します。
また、自然派のワインなどによく見られますが、二酸化硫黄が少ない場合にも繁殖しやすいです。
ワインの主発酵が終わって、マロラクティック発酵を行う際に、適正な乳酸菌を入れないと増えてしまうため、アレルギーを起こさない適正なものを添加する必要があります。
野生の乳酸菌が増えてしまうと、古くなったバターのような重たい匂いや、傷んだ牛乳の匂い、ネズミのおしっこのような匂いがします。
また、苦みやねっとりとした味わいが強くなり、ワインがドロドロして糸を引くようになります。
野生乳酸菌を繁殖させない方法は?
まず最初に、野生乳酸菌の居場所がなくなるように、適正な乳酸菌(オエノコッカス・オエニ)を入れ、その隙間をなくすようにします。
そして、低温で保管します。こうすることで野生乳酸菌は眠ってしまうからです。
さらに、発酵後には二酸化硫黄を加えます。特にpHの高いワインは多めに添加します。pHは3.4以下だと野生乳酸菌が働きにくいため、低めのpHを保つことが肝心です。
産膜酵母
産膜酵母は、ワインの表面に白いしわのある膜を作る酵母で、空気を好み、ワインに含まれているアルコールや糖を食べ、独特の匂いや味をもたらします。産膜酵母を生かして作るお酒も中にはあり、スペインで造られるシェリーや南フランスで造られるヴァン・ジョーヌはそのひとつです。
しかし、普通のワインでは絶対に避けなければいけない微生物のひとつです。
産膜酵母の影響を受けたらどうなるか
まず、樽やタンクの上部に隙間があり、空気があると産膜酵母が繁殖します。また、温度が15~25度と高い場合や、二酸化硫黄が足りない場合にもよく出現します。
そして、貴腐ワインのような甘口ワインや、甘味が残っているワインによく現れます。
産膜酵母が現れると、ワインの表面に白いしわのある膜ができ、放っておくと厚みが出てきます。すると、古いシェリー酒や腐ったリンゴのような酸っぱい匂い、そして、アセトアルデヒドが増えるため、薬のような匂いもしてきます。
酸味が強くなりすぎ、ワイン特有のフレッシュさも損なわれてしまいます。
産膜酵母を繁殖させない方法は
やはりワインを入れる樽やタンクを常にワインで満たしておくことや、炭酸ガスや窒素を入れて空気を追い出しておくことが一番の対策になります。
また、ワインは適切に二酸化硫黄を使用すること。甘口の場合は少し多めに添加するのが肝心になります。
そして、15度以下の低温で保管し、樽やタンクは使い終わったらすぐに洗浄し、樽は乾燥させないのも重要です。
普段から樽の中にあるワインを鏡等でこまめにチェックし、産膜酵母らしいものを見つけたらすぐに取り除くなどの対応を行います。
ブレタノマイセス
この一見目にすることのない微生物の名前ですが、ワイン通と呼ばれる人なら聞いたことがあるかもしれません。ワインに独特の「馬小屋臭」や「絆創膏の匂い」など、よくない香り(オフフレーバー)を出す頑固な酵母です。
普通の醸造酵母と違うのは、栄養が少なくても、二酸化硫黄が効きにくい環境でも、じわじわと生き延びるという性質です。ブレタノマイセスは樽熟成のワインによく見られ、一部の人にはワインの「複雑味」ととらえられますが、ほとんどの場合はワインの欠陥としてとらえられるものです。
基本的に古い樽の内側に存在したものが、洗浄不足で現れたり、汚れの残った樽で熟成しているとゆっくりと増殖するだけでなく、発酵か眼前に終わっておらず、澱と一緒に寝かせているときに発生したり、自然派ワインのように二酸化硫黄の添加量が少ないと増えやすいことが挙げられます。
ブレタノマイセスの影響を受けたらどうなるか
ブレタノマイセスの影響を受けたワインには特徴的な香りが現れます。馬小屋、湿った革、消毒液、燻製肉、絆創膏など。トップノートがクローブやシナモンなどのスパイスのような香りがしても、時間がたつと不快な香りが現れます。
また、香りだけでなく、味にも影響が出ます。金属っぽい苦みやざらついた舌ざわりが残り、フルーティーさは消えてしまいます。
フランスのローヌ地方やボルドー地方などでは「伝統的な香り」として許容されることもありますが、現代的なクリーンなワインづくりにとって、ブレタノマイセスのもたらす香りはよくないものとしてとらえられます。
ブレタノマイセスを繁殖させない方法は?
まず、古い樽の洗浄不足が原因になることが多いため、樽を徹底的にきれいに洗うことが最初のステップです。
80度以上の熱湯で洗い、オゾン水や過酸化水素で殺菌します。
新しい樽であっても、菌が潜んでいる場合があるので、洗浄はしっかりと行うのが肝要です。
また、ワインを作る際の二酸化硫黄もきちんと使うことや、長期間樽に入れすぎないこと、もし長期間樽に入れる場合はこまめにチェックをするようにします。
そして醸造所全体を清潔に保ち、外側は乾燥させず、内側の湿気もなるべく残さないようにします。ホースやポンプも、使用するごとに洗浄することが重要です。
ワインを取り巻く環境には様々な微生物が存在しますが、それは必ずしもワインにとっていい影響を与えるものばかりではありません。
ワインは人の口に入る「食品」であり、だからこそ衛生面に気を付け、衛生的に問題のないものを飲み手の皆様にお届けするのがワイナリーの使命でもあるのです。
中伊豆ワイナリーでは、ワインの衛生環境に細やかに気を使い、今日もワインづくりに励んでいます。