栽培家とぶどうの栽培についての話をすると、必ずでてくるのが「樹勢」という言葉です。(※樹勢とは、樹が大きくなろうとする勢いのこと。))

以前の記事で、「品種の特性をとらえた樹間と本剪定」の紹介をしましたが、気候や土壌、品種の特性、またそれぞれの樹が持つ個性によって樹勢は変わるので、「強い樹勢をどう抑えてそれぞれの樹を落ち着かせていくのか」というのは、毎年繰り返し考えていかなければならない課題です。

本記事では、栽培家が今年樹勢を抑えるために行ったさまざまな対策の一つ「ダイナミックな仕立て」についてご紹介いたします。


ソーヴィニヨン・ブランの仕立て

ソーヴィニヨン・ブランの樹間(5メートル区画の間に植える樹の本数のこと)は3本にしています。隣り合う樹とのスペースを広くとり、結果母枝(本剪定で選ばれた2本の枝。実をつける芽の基となる枝のこと)を長くする、そして芽の数を多くすることで樹にエネルギーの消費をさせ、樹勢を抑える狙いがあります。しかしそれでもまだ樹勢が強い樹には、大胆な仕立てを施しました。

この写真を見てお分かりになるでしょうか?

ダブルの長梢剪定の結果母枝は、本来左右に1本ずつ選んで寝かせ、1本の樹に対して2本取りますが、樹勢の強い樹はこうして左右に2本ずつ、計4本の結果母枝を残しています。

こうすると芽の数は倍になり、よりエネルギーの消費を促せます。養分を送る芽の数を多くしてゆっくり成長させるために、樹の幹の途中に出る胴吹きの芽もあえて欠かずに残します。

芽が混み合って管理や成長の妨げになるのでは?と心配になりますが、4月から5月に行う芽かき作業の際に、重なり合う2本の枝から交互に芽をかきます。

このときも一気にはかかず、何回かに分けて少しずつ減らしていき、バランスを整えてあげることで調整していきます。

胴吹きを残した状態
成長の様子を見て最終的には胴吹きは取り除きます

この仕立てで育ったぶどうも、毎日栽培家に見守られ、健全できれいな姿に成長していきました。


シラーの仕立て

シラーの樹間(5メートル区画の間に植える樹の本数のこと)は5本です。隣とのスペースがあまりなく、ソーヴィニヨン・ブランのように結果母枝を長く伸ばすことは難しい環境です。ではどう対応するのか?

この仕立てを見てください。

枝がこんなに湾曲しています。というか折り返しています。枝ってこんなに曲がるんだ!と驚きましたが、横に伸ばせないなら主幹のほうへ曲げ戻そうという発想にも驚きました。

この仕立ては、シラーの枝が比較的しなやかであり、誘引するタイミングの見極めと高度な技術があってこそのこと。熟練した経験なしでは、簡単に折れてしまいます。

栽培家は、「こうすることによって結果母枝の長さは2倍になり、主幹に戻すことによって養分の流れを抑えることもできる。シラーは芽かきや摘房もしないからモサモサになるよ」と言います。

その仕立て後の成長したシラーの様子はこちらです。

「何のストレスもなく元気に成長しのびのびしてるよ」と。

そうは言っても、このモサモサの状態を放置していたら、ぶどうも窮屈ですし湿度が上がって健全な成長の妨げになります。

そのため、新しく生えてきた新梢はなるべく重ならないように誘引し、摘房(ぶどうの房の数を減らして、適切な房の数に調整する作業のこと)をしない代わりに、房の上部につく小さな房を取る「肩おとし」や房の中の実の数を制限する「段おとし」、「除葉は早めにする」などのケアを行っています。

成長した房どうしの絡みをやさしくほぐす様子は、正に子を思う親心のように見えました。

シラーも元気に成長してくれました。


カベルネ・ソーヴィニヨンの仕立て

カベルネ・ソーヴィニヨンの樹間(5メートル区画の間に植える樹の本数のこと)は5本。

シラーと同じく狭いスペースとなります。では同じように枝を主幹のほうへ曲げるのかというと、カベルネの枝はとても固くそれができません。でも樹勢を抑えるためにも、結果母枝は長く残したい。そこで取ったのがこの仕立てです。

自分の生育スペースを超え、隣の樹の幹まで枝を伸ばし交差させています。

この状態でなるべく多い芽を残して管理し、芽かきの際に重ならないようにバランスをとります。

ソーヴィニヨン・ブランは自分の枝の中で芽数のバランスを調整しましたが、カベルネは隣の樹の枝とで調整をすることになります。

成長したカベルネ・ソーヴィニヨンの様子


まとめ

今回ご紹介した3品種では大胆な仕立てを施しましたが、その結果、来年の結果母枝として候補に上げていた枝たちは、樹勢が抑えられて枝は細くなり、狙い通りの仕上がりになりました。

「あえてモサモサにする」という方法をとることによって、風通しが悪く湿度が上がり、病気のリスクは高まります。それも想定した上で品種の特性を考えた見回りをし、サポートしていくことが大切です。

これができるのは、「樹のことを熟知しているからこそ。基本的なぶどうのしくみや栽培方法を理解していれば、それをあえて崩しても、対応できるし元に戻すこともできる。

樹と向き合う中で、元気すぎる樹は落ち着くように、落ち着いていたらいつものように、元気がなければ休ませる。これを数年かけて繰り返すことで樹勢をコントロールし、落ち着いた樹勢に仕上げていく。

それができたあとはシンプルに仕立てるよ。」と栽培家は言います。健全で良質なぶどうを収穫するために試行錯誤して行う樹勢の管理は、品種ごとに丁寧に向き合うことで、新たな発想が生まれているように感じます。

次またどのような工夫がされるのか、どんな発想が生まれるのか、毎年少しずつ進化する栽培方法、この辺りは他の品種も含め、今後も注目していきたいと思います。