実りの秋を迎え、ぶどうが収穫されると始まる、その年のワイン造り。ワイン造りは、とれたてのぶどうを最初に搾ることから始まるイメージがあるかも知れませんが、ぶどうの種類や造りたいワインによって、搾り方も変わってきます。この記事ではワイン造りで行われる「プレス」についてご紹介します。
ワイン造りにおけるプレスとは
プレスというと「搾汁」や「圧搾」といった言葉が思い浮かぶ方も多いかもしれません。
古くは人の足でぶどうを潰して行われていたプレスも、現代ではさまざまな方法があり、どのような方法でプレスするかがワインのスタイルに影響を及ぼします。
中伊豆ワイナリーでワイン造りの際に行われているプレスは下記のような種類があります。
- 除梗ありのプレス
- ホールバンチプレス
- 発酵後マスト
一番下は赤ワインに用いるものですが、中伊豆ワイナリーでは白ワインを造るときに上2つの方法を用いています。どのような違いがあるのか、解説していきましょう。
除梗ありのプレス
まず最初の方法は、ぶどうの果粒がついている「梗(こう)」の部分を取り除いて行うものです。除梗機を使って梗の部分のみを取り除き、果粒だけをプレス機に入れて果汁を搾ります。
梗には未熟なタンニンや雑味のもととなる成分が含まれているので、取り除くことで白ワインのクリアで繊細な味わいを引き出すことができます。
中伊豆ワイナリーでは、梗を取り除いてからのプレスにも3通りあり、果粒を破砕しないでそのままプレス機に入れる場合と、破砕して果粒をプレス機で搾り、果汁をタンクに移す場合と、スキンコンタクトを行ってから搾汁する場合があります。
スキンコンタクトとは
スキンコンタクトは白ワインのみで使われる手法で、ぶどうを破砕した後すぐにプレス機で搾るのではなく、一定の時間果皮を浸してからプレスする方法です。
白ワインは通常、果汁になった段階で果皮を取り除いて造りますが、果皮を一定の時間浸すことで、ぶどうの果皮に含まれるさまざまな成分が浸出し、出来上がるワインに良い影響を与えます。
スキンコンタクトは、品種の個性をより強く引き出すための手法ともいえます。
例えば、果皮の成分が果汁に移り、華やかで豊かな香りが現れたり、ぶどうの果皮の内側にある濃厚な糖分が浸出し、芳醇な風味を増す効果もあります。
また、黒ぶどうほどではありませんが、白ぶどうもタンニンやポリフェノールが果皮に含まれているため、果皮を浸すことで複雑で厚みのあるワインが生まれます。
スキンコンタクトは温度管理や浸漬の時間によって、かえって雑味が出てしまうこともあるので、熟練の技が必要な難しい手法でもあります。
また、浸漬している間に果汁が酸化しないように炭酸ガスをプレス機内へ入れたり、プレス機自体も果汁を集めるスリットが内側についているクローズド型を使用することで可能となる方法です。
ホールバンチプレス
ホールバンチプレスは、中伊豆ワイナリーで多用している、白ワインのもう一つのプレス方法です。
通常はぶどうを除梗破砕機にかけて梗を取り除きますが、ホールバンチプレスでは梗が付いたまま、つまり房ごと(ホール)ぶどうをプレス機に入れて搾ります。
ぶどうを破砕しない分、果汁が空気にさらされないことや、果汁と果皮の接触が最小限になることから、透明度が高くクリアな、きれいな果汁が取れるというメリットがあります。
発酵後マストのプレス
赤ワインの場合、白ワインとは手順が違い、まず黒ぶどうを除梗してから果皮や種も含めた「果醪(かもろみ)」をタンクに入れて発酵を行います。
ワインを造る際の、発酵前から発酵後の果醪のことをマストと呼び、赤ワインの場合マストに酵母を添加してアルコール発酵を行い、ワインを造ります。
発酵のプロセスについてはまた別の機会に解説しますが、赤ワインの場合は発酵が終わるまで、マストの中に果皮や種が含まれている状態のため、発酵が終わってからプレスを行います。
まず、発酵が終わったタンクから出来上がった赤ワインをポンプである程度引き抜き、残った醪をタンクの中からかき出します。
醪にはまだワインが含まれているため、赤ワインを残さず取り出すためにプレス機へと送ります。
このとき、白ワインのようにソフトにやさしく搾るのではなく、強く圧力をかけ、皮や果肉に含まれる味わい成分をしっかりと搾り出し、赤ワインを取り出します。
写真は搾る前のマストと、搾った後のワインです。
ちなみに、このとき出る搾りかすから、中伊豆ワイナリーではブランデーを造っています。ブランデーについてもまた別の機会にご紹介しようと思います。
中伊豆ワイナリーで使用しているプレス機
中伊豆ワイナリーでワインを造る際に使用しているプレス機は、一般的な空気圧式のものです。
円筒を横に倒した形のタンクの中で風船のようなものがふくらみ、空気圧でタンクの側面に押し付けられたぶどうがつぶれて果汁が取れる仕組みになっています。
とてもソフトに果汁を搾ることができるため、油圧の力をかけて搾る場合のような雑味が出ないのが特徴です。
プレスはワインを造るうえで必ず通る作業ですが、特に白ワインの場合、ワインのスタイルや方向性を決める大切な作業になるため、どのような方法をとるか慎重に決める必要があります。
中伊豆ワイナリーでは、醸造家がひとつ一つのステップに細心の注意を払いながら、ワイン造りを一歩一歩進めていきます。
どんなふうにプレスされたのか考えながらワインを楽しんでみてくださいね。