ワインの品質や収量に深く関わるワイン用ブドウ栽培において、農家たちは様々な技術を駆使して作業を行います。その中でも特に重要視されているのが、「本剪定(ほんせんてい)」です。この作業は、ブドウの生育や収穫に大きな影響を与えるものであり、栽培家たちは慎重に剪定作業を行います。本記事では、本剪定の基本的な概念から、栽培家が考えるポイント、そして本剪定後の重要な作業である「つる磨き」に焦点を当て、その奥深さに迫ります。
本剪定とはなにか
本剪定とは一般的に寒冷な冬季に行われ、次年度以降のブドウの収穫量や枝の伸びを想像しながらブドウ樹の形を整えるだけでなく、今後のブドウ樹の成長や夏場の作業性にも影響する大変重要な工程です。植物のエネルギーをバランス良くブドウ樹全体に行き渡らせることで、ブドウの品質や収量を安定化させます。そして、不要な枝やコブを取り除くことで、病気や害虫のリスクを低減させることが期待できます。本剪定は、栽培家にとってブドウ園の将来を見据えた重要なプロセスなのです。
本剪定を行う上で栽培家が考えていること
栽培家にとって本剪定は、単なる作業ではなく「ブドウ樹1本1本との対話」だと栽培責任者は語ります。
本剪定は、そのブドウ樹の1年がどうだったのか、振り返ることから始まります。
『前後左右のバランスが取れており、まっすぐ育っているか』
『枝に丸みがあり、太さのバランスは良いか』
『ブドウ樹が疲れていないか』
昨年に行った剪定が、期待通りの結果になったのかどうかを、ブドウ樹と栽培家の間で『答え合わせ』をしているのです。
ブドウ樹にはそれぞれの個性があり、品種の違いによる特徴や成長のクセがあります。
答え合わせで得られた情報とこれまでの経験や知識をもとに、ブドウ樹がこれからどのように成長したいのか、成長に負荷をかけすぎていないのか(無理をしていないのか)を見極め、丁寧に剪定を行っているのです。
また、剪定のタイミングも重要であり、本剪定が寒冷期に行われることにも意味があります。ブドウ樹は気温が低下することで代謝活動が低下し、日照時間が短くなることで光合成によって得られるエネルギーが減少するため、休眠期を迎える準備が始まります。ブドウ樹の休眠期は収穫が終了した11月下旬頃から始まりますが、ブドウ樹がしっかり休眠している状態になるこの時季に剪定を行うことで、ブドウ樹へのストレスを最小限に抑えることができるのです。栽培家たちは経験と知識を駆使して、ブドウ樹ごとの特性に合わせた最適な剪定方法を見出すことが求められています。
本剪定の後に行う「つる磨き」がもたらす効果
本剪定が終わった後に行う作業が「つる磨き」です。つる磨きを行う目的は、大きく2つあります。
1つは、剪定後のブドウ樹の枝を整え、適切な形状に仕上げるためです。
もう1つは、病気の発生リスクを低減させることです。ブドウ樹の成長を脅かす代表的な病気に、黒とう病(こくとうびょう)や晩腐病(ばんぷびょう)などが挙げられますが、これらの病原菌は菌糸(きんし)の状態でブドウ樹に付着し、越冬します。
剪定後のブドウ樹になるべく病原菌を残さないためには、不要な枝やつるを綺麗に取り除き、ブドウ樹から生えている枝だけでなく、ブドウ樹を支えるために張られているワイヤーに絡まったつるも、すべて丁寧に取り除きます。
病害が多く見られた年のブドウ園では取り除いた枝やつるを園内に残さず、園外に持ち出して処分することで、翌年のブドウ樹に影響がでないよう工夫をしています。
まとめ
ワインブドウの栽培において、本剪定は品質向上と収量の安定や増加の鍵を握る重要な作業であり、栽培家たちの緻密な計画と経験に支えられています。本剪定を通じて栽培家が果たす役割は大きく、その後のつる磨きとの組み合わせが、ブドウ園の持続可能な成功につながるのです。これらの作業の奥深さを理解し、専門的な知識と技術を活かすことで、美味しいワインが生まれる高品質なブドウの収穫に貢献しています。
次回、「本剪定」から「誘引」へ。樹のバランスを整える重要な作業の記事は下記よりご覧ください。